- 飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。
外界と体内をつなぎ気の出入りで大忙し、目は用事がなければ閉じておく!?
気の省エネ生活 vol.2
人のからだには9つ穴があります。目、鼻、口、耳、お小水とお通じ(小便・大便)の出口です。これらは外界とからだの内側をつなぎ、エネルギーや情報の出入りが行われています。
この中で、現代社会において外部の刺激を受け入れる主要ルートであり大忙しになっているのが目と耳です。私達は見たいと意識しなくても何かしら見ている、聞きたい音でなくても聞いてしまっている、それが日常では普通のことになっています。
実は見るというはたらきは意外とエネルギーを消耗します。試してみましょう。
今周囲をちょっと見渡して、見えている景色を軽く確認してください。それからリラックスして軽く目を閉じ、3分程そのまま目を閉じていてください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(3分程経過)
はい、目を開けてください。
周囲の景色の見え方はいかがですか?目を閉じる前と比べて、周囲が明るく感じたり、色彩がはっきりしていたり、目の辺りが軽くスッキリしていませんか?
このようにほんの少し目を閉じているだけでも気血が蓄積されて回復するのです。
漢方では「目は血(けつ)を得て見える」と言われます。じっとしてからだを動かさずにいたとしても、何かを見ているだけで気血を消耗しているのですね。
貝原益軒の『養生訓』に、次のような記載があります。
~目をつむって落ちつく~
『医学入門』にいう。「年四十以上は、事なき時は、つねに目をひしぎ(つむること)てよろし」と。用事がなければ目を開かない方がよい。
(養生訓 全現代語訳 訳:伊藤友信 講談社学術文庫)
*『医学入門』は中国、明代(1575年)、李梃による著書
なんと!40歳を過ぎたら用事がなければ目は閉じておきなさい、と。目、鼻、口は気の出入りするところであって、それだけに気がもれやすく、みなかたく閉じて気を多くもらしてはいけない、耳は長く聴いていると精神を疲労させると益軒は述べています。
抑目静耳(よくもくせいじ)
では、現代に合う形でこれを活かしましょう。
益軒のように徹底することは難しくても、自分が出来る範囲で、油断すると酷使しがちな目と耳を意識的に休ませることを心掛けてみませんか。
養生法の考え方に「抑目静耳」という言葉があります。目を抑え耳を静めて外部からの刺激を減らすことは健康に有益となるという教えです。
先ほど3分程じっとして目をつぶっていただいたのが、「抑目静耳」をしていただいということになります。慣れないうちは落ち着かないかもしれません、そんな場合は、自分の呼吸に意識を向けるようにしてみると良いでしょう。目はつぶって自分のお腹の動き感じる、耳は自分の呼吸の音を聴く、そんなイメージでスタートすると始めやすいと思います。
この「抑目静耳」は目と耳を休めるだけでなく、“考え過ぎ“で気血を消耗した脳を休めることにもつながります。考えごとが多い時にもおすすめですよ。
さて、9つの穴の中で気がもれやすく、かたく閉じて気を多くもらしてはいけないひとつである「口」、この流れでは、もしや「用事がなければ話さない方がよい」ということでしょうか。
次回は「口」の視点から気の省エネを見ていきましょう。
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