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公開日:2017.05.01 更新日:2020.05.2010861view

植物の「毒」こそが薬になる?トリカブトとケシ

中医の玉手箱(10)

友達が何やら憤りながら連絡してきました。「知合いから手のしびれにいいと勧められた漢方薬の成分を調べたら、“ブシ”って書いてある!これトリカブトでしょ!毒じゃないの!こんな危ないものをいいと言うなんてひどい!」とプンプン怒っています。
トリカブトに猛毒の成分があることは広く知られています。トリカブトを加工して毒性を低減させたものを漢方薬では「炮附子(ほうぶし)」と呼びますが、さて、この友達が言うように危険なものなのでしょうか。今回はトリカブトの名誉回復(?)をしましょう。

トリカブトはキンポウゲ科の多年草で、日本でも沢などの湿ったところに自生しています。青紫や白の美しい花の形が古代の冠、烏帽子(えぼし)に似ているためこの名前が付けられたとのこと。春の芽吹きの時期には、食用となるニリンソウ、セリやヨモギと似ているためにトリカブトを誤って食べてしまい、中毒を起こしたとニュースになることがあります。食後、口唇のしびれや嘔吐、呼吸麻痺を起こし、心停止から死に至ります。そして解毒のための薬や方法がないのだとか。…こんな風に書いてあったら、友達が「危険だ!」と言うのも無理はありませんね。

トリカブトは、根っこについた子根(しこん)部分を漢方薬に使います。泥を落とし、きれいに洗った後、特殊な加熱をして毒性を低減させます。煎じる際は、毒性をすでに低減させてありますが、さらに他の生薬よりも長く煎じることになっています。附子は「大熱」で、身体を温めるはたらきがあるため、ショック状態で体温が下がったときや、冷えがあるときに使われますが、温めて血のめぐりをよくするため、手のしびれなどにも応用されます。

古人は、このトリカブトを狩りをする際の毒矢に使い、その動物の肉を焼いて食べることができたことから、「加熱すると毒性が下がる」ことに気がついたようです。そして、この肉を焼いて食べたら身体が温まって元気になった、と考えるのは飛躍しすぎでしょうか。

トリカブトだけでなく、他にも毒性を持つ植物や動物が、毒性を減らして漢方薬として使われています。ケシは未成熟果実から得られる乳汁はアヘンとなり、鎮痛や鎮咳に使われます。成熟果実は加熱加工したのち下痢や長引く咳を止めるはたらきがあるとされています。「薬有三分之毒」、つまり薬には三分の毒があると言われていますが、裏を返せばこの毒の成分が薬効成分となります。現代のように化学合成した治療薬がなかった時代、昔の人たちが経験によって自然の中から薬となるはたらきを見出してきたことに感謝と尊敬の念を抱かずにいられません。

原口 徳子
原口 徳子 - Noriko Haraguchi[中医師・薬日本堂漢方スクール講師]

1963年仙台市生まれ。高校生の頃に太極拳を学び、経絡や気の流れに興味を持つ。家族の転勤で2003年から10年ほど中国に住む間に、上海中医薬大学で中医学と鍼灸推拿学を7年間学ぶ。修士号(中医学)を取得して卒業、中医師の資格を取得後2014年に帰国。「お母さんと子供を元気にする漢方と養生」の普及のために活動中。

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