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公開日:2024.12.21 更新日:2024.12.2131view

冷えて腹痛・嘔吐~大建中湯

漢方薬のつぶやき vol.26

医療用でもっともよく処方される
お腹が冷えて胃腸の動きがわるくなることで起こる腹痛。こんなときに大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬が使われます。

医療用では術後のイレウス(腸閉塞)防止を目的に投与されます。
腸閉塞は腸の一部が詰まって食べ物や水分がうまく流れなくなってしまう状態。開腹手術により腸管が麻痺して腸の蠕動運動が障害された状態でも起こります。
主な症状は腹痛、吐き気、嘔吐、お腹が張るなど。

大建中湯を術後に服用すると、排ガスまでに要する日数が短くなる、飲食開始日が早まる、入院期間が短縮されるなどの効果が確認されています。

医療用で繁用される大建中湯ですが、日常ではどのような場面で使えるか、そして、服用の注意点についてお伝えします。

冷えによる蠕動運動低下
体が冷えると筋肉が縮まり、肩が凝ったり、手足がこわばります。ひどいと痛みが生じることも。冷えることで、気血の流れがわるくなるからです。
この現象は内臓でも起こり、腸に冷たい刺激があったときには気血の流れが滞り蠕動運動が低下します。

冷たい飲食物、生もの、果物などお腹を冷やすものの過剰摂取。寒い場所に長時間滞在するなどが原因です。とくに胃腸の弱い人や冷え体質の人は、体を温める機能が低下しているためちょっとした寒冷刺激でもお腹の冷えにつながります。

寒冷の刺激で動きのわるくなった腸は激しく痛み、腹部は張って苦しく、なでることも手を当てることも嫌がります。
蠕動運動がほとんど停止したのではないかというこの状態では、気の流れが逆流して吐き気が起こります。吐いても腸が動き出すわけではないので腹痛や吐き気は改善しません。

胃腸を温めて動きを回復
そんなときに用いられるのが大建中湯です。
配合されている生薬は4つ、山椒(サンショウ)、乾姜(カンキョウ)、人参(ニンジン)、膠飴(コウイ)です。

山椒は、お腹を温めて気を巡らせます。
乾姜は、生姜(ショウキョウ)を蒸したもので、お腹を温める効果は生姜よりも強い生薬。
人参は、温めながら胃腸のはたらきを高めます。
膠飴は、米やアワなどの穀類を発酵させて糖化したもので、胃腸に力をつけつつ、痛みを緩和します。

4つの生薬の連携により、消化管をしっかり温めて冷えの刺激を取り除き、気血を巡らせて腸の蠕動運動動を正常化。痛みと腹部の張り、吐き気を改善します。

漫然と長期服用しない
大建中湯の効能は「体力虚弱で、腹が冷えて痛むものの次の諸症:下腹部痛、腹部膨満感」。

服用に際して注意していただきたいことが2つあります。
大建中湯は温める力の強い漢方薬ですので、体に熱のこもった症状には使用しません。冷えが原因の症状であるか、冷えの体質があることを確認しましょう。

また、漫然と長期服用することは避けましょう。
開腹手術後の腸管癒着や腸閉塞の予防または治療に非常によく用いられていることは前述しました。
術後、腸閉塞の予防に使用した人が、その後も数年にわたり服用を継続しているという話を聞くことがあります。

漢方の考え方では、同じ人でも体調の変化によって使用する漢方薬が変わります。ですから、術後に大建中湯がよかったからといってそのまま長期服用するのではなく、体調・体質を定期的に確認しましょう。その上で継続服用、休薬、より適切な漢方薬への変更を検討することが大切だと思います。

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