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公開日:2024.08.07 1407view

夏の和菓子が熱中症対策に?

暮らしに潜む!漢方よもやま話  vol.2

「葛切り」の原料が漢方薬に使われている?
見た目に涼しくツルツルした口当たりで暑さを和らげてくれる葛切り。
夏にいただく涼菓として多くの人に親しまれています。
原料の「葛」は、太古より万葉の歌にも詠まれ、秋の七草としても知られていますが、「葛切り、葛もち、葛まんじゅう、葛だんご、葛湯」で知られるように「葛」は古くから食材としても重宝されてきました。
現代でも、とろみをつける食材として和食や介護食にも活用されています。

葛切りをはじめとする葛菓子は、クズの根から取れるデンプンを精製した葛粉から作られますが、
このクズの根は、「葛根(かっこん)」という生薬として漢方薬に使われています。

葛根(かっこん)が身体の熱を冷ます?
「葛根(かっこん)」が配合されている漢方薬といえば…そうです!葛根湯(かっこんとう)
葛根湯は、「葛根」を含む7つの生薬で組み立てられている漢方薬です。
この漢方薬は、身体を温め発汗させて外から入ってきた病邪を体表から追い払ってくれるのが特徴で、身体がゾクゾクして強い寒気がとれず、肩や首筋がこってくるというようなカゼのひきはじめに使われます。
さて、身体を温める漢方薬に入っている「葛根」ですが、「葛根」自体には熱を冷ます性質があります。
葛根湯は「葛根」以外のほとんどの生薬が身体を温めるため、漢方薬全体としては温めるはたらきになっています。

葛根(かっこん)がもつ4つのはたらき
ここで「葛根」がもつ4つのはたらきについてご紹介します。

・発表解肌(はっぴょうげき)
 …体表にとどまっている病邪を発散し、首や肩のこりや痛みを解消する。
・解熱生津(げねつせいしん)
 …体内にこもった熱をとり潤いを増やして、ほてりや渇きを癒す。
・昇陽透疹(しょうようとうしん)
 …発疹の出方が悪いときに発疹を促して毒を追い出す。
・止瀉(ししゃ)
 …胃腸のダメージによる下痢を止める。

「葛根」は、身体にこもった熱を冷まして潤いを養ってくれるので、夏に起きやすい身体のほてりや口の渇きに活用できます。更にこの時期に起きやすいお腹の不調からくる下痢を止めてくれる力もあります。
まさに、クズの根を原料とする葛切りは夏バテや熱中症予防に役立つ和菓子と言えそうです。

醍醐天皇も推していた「わらび餅」、そのはたらきは?
“もちぷる”食感が魅力、きな粉や黒蜜でいただく夏定番の和菓子と言えば…わらび餅!
最近ではドリンクでお見かけするほどの人気ぶりです。

わらび餅が歴史に登場するのは平安時代です。
醍醐天皇が好物だったと記されるほど、古来より日本人に愛されてきました。
わらび餅の原料は山菜のワラビ。根から取れるデンプンで作られます。
このワラビの根には身体にこもっている熱を冷まし体内に停滞している水分を尿で追い出すはたらきがあります。
一年で最も暑く湿気の多い夏。この「熱」と「湿」が強くなると熱中症や夏バテが起きます。
「熱」も「湿」も取ってくれる「わらび餅」は夏の身体に嬉しい和菓子と言えるでしょう。

“黒蜜きなこ”の秘密
わらび餅や葛切りにトッピングされる黒蜜ときなこの合わせ技。
きなこの原料になる大豆は、胃腸を元気にして水めぐりをよくします。
黒蜜の原料は黒糖。血を補い血行を良くしてお腹を温めます。
まるで、熱を冷ます「わらび」や「葛」で身体が冷えすぎないよう上手くサポートしているようですね。
加えて夏に消耗しやすい元気と潤いも補っているようにも見えます。

エアコンも扇風機もない時代、あらゆる智慧をもって「涼」を取っていた先人たちの姿には脱帽です。

山吹 育恵
山吹 育恵 - Ikue Yamabuki[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

東北医科薬科大学を卒業後、病院勤務を経て1990年薬日本堂入社。 2011年までニホンドウ漢方ブティック仙台トラストシティ店で店長を務めた後、20年の臨床経験を活かし、漢方スクールの講師と社内相談員の学術支援に携わる。大自然の力に魅せられ、自然農の考えに触れたことをきっかけに15年前より自らも農業を実践中。

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