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公開日:2024.01.07 更新日:2024.02.011728view

食べることは生きること~食事を楽しむ

体質と生き方を左右する食べ方~食養生のポイントVol.6

食を営む力を育てる
子どもたちとの生活の中で私が一番意識していることは「身体の栄養のみならず、心の栄養にもなる食事がしたい」ということです。そのために食事の準備は母親の私一人が頑張るのではなく、家族みんなで力を合わせます。
世のお母さんたちが仕事に家事に育児にと奮闘する毎日を持続可能なものとするために大切なのは、自分一人がすべてを背負い込んでしまわないこと。それは、子どもたちが食生活を営む自力を養う機会を作るということでもあります。

例えば私の場合、食材の調達は時短のためにインターネット注文の宅配サービスを利用しますが、休日は子どもと一緒に買い出しに行き、野菜や魚介など各食材を手に取る際、「どの大根がおいしそうかな?」「どのイワシが新鮮かな?」と投げかけて、子どもに選ばせてカゴに入れます。
調理する際には、食材を切ったり、混ぜたり、焼いたり、といった一部の行程を子どもに任せます。

そして、食べる前には、「この人参は〇〇ちゃんが切ったよ」「この和え物は●●くんが混ぜたよ」などとみんなに伝え、それを聞いた他の家族が「すごいね!ありがとう」と声かけします。
食事の準備に子どもたちができる範囲で無理なく関わり、その行いに対して感謝の意を伝えられることで、それぞれが達成感や充実感を得ています。そうして準備された食卓は楽しいものとなります。
子どもたちに役割を与えることで、食事を準備する際の作業負担が軽減された上に我が子の成長も実感でき、自ずと食事を楽しむ心のゆとりも生まれて母親としては一石二鳥とも三鳥とも感じられます。

食を通じたワクワク体験を
父親の影響で子どもたちも釣りが好きで、自分たちで釣ってきて先ほどまで生きていた魚を、「こんなに大きいのが釣れたよ!」と得意げに話しながら調理して食べるのは格別です。
近所の餅つき大会で、自分たちが杵でついたつきたてのやわらかいお餅を、集まった大勢の中で笑い声をあげながらわいわい食べたり、食わず嫌いで食べられなかった椎茸も、椎茸狩りをして採れたてをその場で焼いて食べたことがきっかけで美味しく食べられるようになったという経験もあります。
ぽかぽか陽気の休日のお昼ご飯は、自宅ベランダにテーブルをセットして外の空気を感じながら食べたり、たとえ食事内容が同じであったとしても、楽しんで食べることで身体にも心にも栄養がよりしみこんでいくことを実感します。

実際のところ、消化吸収の良し悪しは、気持ちに大きく左右されます。ストレスを溜め込んでイライラする、落ち込む、時間に追われて焦るなどの状態では、消化が悪く吸収しづらいため、心身の栄養にもなりにくいです。一方、家族や友人、地域の人などと穏やかな気持ちで楽しく食べることができれば、消化が良好で栄養の吸収も良くなります。

口福な思い出
20代の頃、夫の故郷、中国を訪れた際、何人もの彼の親戚や友人から「口福があるね!」と言われた記憶があります。
初めての中国滞在で日本とは異なるその食文化に触れ、次から次に出される料理をキラキラした新鮮な気持ちで、心から楽しそうに、美味しそうに、笑顔でいただいていたその時の私の口元には福が来ていたのだということです。
食事をふるまってくれた彼らとは初対面でなおかつ言葉もほとんど通じません。けれど、食事を共にすることでお互いの共感や場の一体感も生まれ、緊張もなく和やかにコミュニケーションを図ることができました。そのときの楽しい食事の場面は20年経ったいまでも鮮明に思い出すことができます。

食べて栄養をとらなければ、人は生きていかれません。人との共感や交流も食を介すると促進されます。
1946年に作成されたWHO(世界保健機構)憲章で定義される健康とは、「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」であり、「単に疾病又は病弱の存在しないことではない」とされています。食によって人との共感や信頼感が生まれやすく、社会的にも良好な状態を育むことができるというのは、皆さんが感じているところであると思います。
コロナ禍にあった数年間は、飲食店でも学校でも「黙食」がルールとなっていました。声を発してはいけない、という閉塞感を感じながら、ただ身体の栄養摂取のために黙って食べる。その体験があったからこそ、いま改めて、誰かと共感しながら食事することの楽しみがより実感できるのかもしれません。

食べることは生きることです。そして、食べることを楽しんだ分だけ、人生を楽しめているのだと、コロナ禍を経た今、あらためて感じています。みなさんもぜひ、食事を楽しむということについて想いを巡らせてみてくださいね。
全6回にわたりお届けしたコラムは今回が最後です。
お付き合いいただきましてありがとうございました。

関連ワード
食習慣 食養生 食薬 薬膳
林 美穂
お茶の水女子大学文教育学部卒業。中国人の夫との国際結婚をきっかけに、中医である義祖父の影響で東洋医学や薬食同源の考え方に出逢う。2011年に薬日本堂入社。相談員として臨床経験を積み、2020年までカガエ カンポウ ブティック京都河原町店の店長を勤め、京都の老舗料亭やホテルでの漢方セミナーも複数開催。現在は二ホンドウ漢方ブティック梅田阪神店にて上級相談員として女性のさまざまなお悩みに向き合いながら、漢方スクール大阪校にて講師を務める。四児の母。
ニホンドウ漢方ブティック梅田阪神店
薬日本堂漢方スクール

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