- 飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。
精神疲労による不眠症~酸棗仁湯
漢方薬のつぶやき vol.11
不眠症の漢方薬
漢方ナイトミン(小林製薬)、快眠精(エスエス製薬)、ホスロールS(求心製薬)、パルミン(日邦薬品)、これらは一般に市販されている不眠症の漢方薬です。実は中身はすべて同じ処方。各社が注目したその処方は【酸棗仁湯(さんそうにんとう)】です。
不眠は原因によっていくつかタイプがあります。酸棗仁湯は血不足にストレスが加わった不眠症に使われます。血不足にストレスが加わった不眠とは?
不眠の原因と漢方薬の服用方法についてお伝えします。
疲れているのに眠れない
血(けつ)は栄養成分であるだけでなく、精神・情緒にも関わる成分です。血が十分あれば、情緒が安定し、考え、記憶し、意欲が湧き、眠ることができます。不足すると、不安感、集中できない、物忘れが多い、やる気がでない、眠れないなどの不調が起こります。
血不足の不眠は次のような特徴があります。
・疲れているのに眠れない
・眠いのに寝つけない
・眠りが浅く途中で目が覚める
・夢が多い
本来、睡眠とはエネルギー・栄養である気血を回復して疲れを癒すものです。しかし、気血の消耗が激しいと「疲れているのに眠れない」という不思議なことが起こります。
眠るのにもある程度の栄養、つまり気血が必要で、とくに精神に関わる血の不足は不眠を招きます。
血不足だとストレスに弱くなる
睡眠に重要な成分である血(けつ)。この血を蓄えているのが五臓の肝です。
肝は血を蓄えるほかに、気を巡らせる仕事もしています。気の巡りが滞ると気分が鬱々としたり、気が高ぶってイライラしやすくなります。
「血を蓄える」と「気を巡らせる」。これらは別々のはたらきではなく連携しており、肝に血が充足していると気の巡りは順調ですが、血不足だと気の巡りが滞ります。
つまり、普段から血不足の人は、疲れやすいだけでなく、情緒が不安定になりやすいです。
冒頭の「血不足にストレスが加わった不眠」とは、血不足でストレスに敏感なため、日常生活のちょっとした緊張や不安、心配事が影響して起こる不眠です。
酸棗仁湯
「虚労、虚煩、眠るを得ず、酸棗仁湯これをつかさどる」
古典に書かれている酸棗仁湯の効能です。「虚労」は身体的な疲労、「虚煩」は精神的な疲労。簡単に表現すると「心身が疲れ、弱って眠れないときに、酸棗仁湯がよい」という意味です。
過労、あるいは普段から虚弱で血不足にあり、そこへ精神的なストレスが加わった不眠に酸棗仁湯が用いられます。
服用のタイミング
ところで、不眠の漢方薬はいつ服用すると思いますか?
西洋薬では不眠に使う薬は就寝前に服用することが多いため、漢方薬の場合も寝る前に服用するものと勘違いされることが多いです。
服用は一日3回です。
漢方薬は「眠らせる」のではなく、不眠の原因に根本的にはたらきかけ、本来の自然な眠りを回復させていきます。
酸棗仁湯の場合は、不足した血を補い、気の滞りによって発生する熱を冷ますなどして眠りを妨げる要素を解消していきます。
心身を整えるプロセスがありますので、寝る前に1回だけ服用するという飲み方ではなく、まずは一日3回定期的に服用します。改善されてきたら徐々に服用回数を減らしていきます。
不眠症の漢方薬を朝や昼に服用しても日中眠くなったりしませんので安心してください。また、西洋薬で起こりがちな副作用、たとえば「朝起きにくくい」「日中ボーっとする」などの心配もありません。
不眠は陰陽バランスの崩れです。生活においては自然の陰陽リズムを意識してください。血不足の主な原因は、身体的な過労、精神的な疲労、飲食の不摂生や目の酷使です。自分の体力に合わせて活動と休息の陰陽バランスをとるようにしましょう。
動画でも!「精神疲労による不眠症に『酸棗仁湯』最も有名な不眠症の漢方薬。効能と服用方法は?」
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