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公開日:2023.03.20 更新日:2024.01.102503view

春のめまい・イライラ・不眠は風のせい~抑肝散

漢方薬のつぶやき vol.5

風が吹けば新陳代謝が高まる
春は『発陳』といって自然界では新陳代謝が盛んになります。
人体も新陳代謝が高まるため、身体の変化が大きく、ということは人によっては不調が起こりやい時期です。

『発陳』とは古い(陳)気を発散して、新しく生じること。
冬から春への移行は陰から陽への大きな変化が起こります。この立役者が「風」です。

風が吹くから陽気が満ちる
漢方の五行説では、自然には「風・暑・湿・燥・寒」の5つの「気」があると考えます。
それぞれ季節と対応していて、「風」は春の特徴的な気候です。
ちなみに五行説で語るときには、「風」と書いて、「ふう」と読みます。

風は年中吹いていますが、「春一番」という言葉もあるように、春の「風」は自然の陰陽リズムにとって必要不可欠な特別なもの。

陰が深まる冬、大地を氷雪で覆うような寒さから心身をまもるために万物は潜伏します。そして春、陽気の高まりとともに天地すべてのものが生じ万物が芽を出します。
この大きな変化を起こす自然界の要素が、「風」です。「風」が吹くから陽気が広がり満ちていきます。

体内にも吹く、爽やかな風
自然そのものである人体にも同じ変化が起こります。春の陽気に呼応して、人体の陽気が体内の「風」に導かれて広がり、人は活動を始めます。

身体の中に「風」が吹く?なんだか変な感じですね。
でも自然界に起こることはたいてい人体にも起こります。

体内に爽やかに吹く「風」が、やる気を起こし、身体をスムーズに動かし、志を表現して、のびやかに活動していくエネルギーとなります。
健康的な心身の状態ですと、そうなります。
ところが、自然界でたとえれば台風のときに強風が吹くことがあるように、体内の「風」が、強「風」になることもあります。

春に多い不調の多くはこの強「風」によって引き起こされます。
めまい、不眠、イライラ、頭痛、血圧の上昇。
これら自律神経失調症と診断されるような不調のほかに、春の花粉症や皮膚の湿疹・かゆみも「風」がきっかけになっています。

風をコントロールする、肝
体内に吹く「風」をコントロールしているのが、五臓のひとつ「肝(かん)」です。
「肝」は春に活躍する五臓です。
年度替わりで変化が多い春。「肝」が順調にはたらけば、爽やかな「風」によって無理なく変化に適応できます。
しかし、緊張して気が休まらない、慌ただしくて気分転換ができないといった生活が続くと、「肝」が不調となり、「風」をコントロール出来ずに強「風」となります。

春と風と抑肝散
やっと漢方薬の話です。
「肝」の不調で強「風」が吹く。漢方では『肝が高ぶる』と表現します。これを治すのが抑肝散(よくかんさん)。「肝を抑える」という処方名です。

『肝が高ぶる』とは、一般的な言葉を使えば、神経が高ぶる、気が高ぶるとも表現できます。
精神面では、神経質になってしまい、気づくとイライラしていて、せっかちで、怒りっぽくなります。身体面では、めまい、頭痛、耳鳴り、不眠、血圧上昇につながり、歯ぎしり、脚がつる、まぶたがぴくぴくする、ストレスで食欲減退が起こることもあります。
抑肝散はこのような症状に適用します。

漢方薬は症状と体質から選びますので、抑肝散は季節にかかわらず使うことが出来ますが、春と「風」と「肝」のつながりから、春の不調に出番の多い漢方薬です。

動画で!「春のめまい・イライラ・不眠~春の自律神経失調症と『抑肝散』漢方薬のつぶやき」


飯田 勝恵
飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]

静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。

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