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公開日:2019.08.20 更新日:2020.05.153025view

一枚の扉、どちらが表でどちらが裏?~陰陽の相互関係

黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.6

陰陽はまるでマトリョーシカ!

漢方の考え方は時にふわっとして、とらえづらく感じることがあります。黄帝もそのように感じたのでしょうか。岐伯に問いかけました。
「自然界のとらえ方で、天が陽、地が陰、太陽が陽、月は陰だというね。人の場合、腰から上が陽、腰から下が陰というけれど、必ずしもそうと言い切れない。どういうことだろう?」

確かに疑問です。ここでおさらいですが、陰とは穏やかで暗く冷たい傾向のもの、陽とは活動的で明るく温かい傾向のものです。

想像してみてください。陽である腰から上にお腹(内臓)があり、頭があります。内臓には心臓もあれば、肺、胃腸などもあります。頭には、目、口、鼻、耳など感覚器があります。これらはすべて陽なのでしょうか?

これに対して岐伯は「陰陽は万物のおおまかな分類ですから、厳密に2つにわけなければならないものではないのです。」と答えています。「物事は、必要に応じて百にも千にも万にもわけることができます。ただ、細かく分類したものも、大きな傾向でみれば陰と陽に大別されるのです。」

たとえば、四季の陰陽では春夏が陽、秋冬が陰です。陽の春夏のうち、より暑いのは夏ですから夏は陽の中の陽、それに比べて穏やかな温かさの春は陽の中の陰となります。ということは、秋は陰の中の陽、冬は陰の中の陰となるわけです。

私はこの現象をマトリョーシカのようだと感じています。マトリョーシカは2つにパカッと分かれると、その中にひと回り小さいマトリョーシカが入っていて、さらにその中にも…というように続きます。陰陽の中にさらに別の陰陽が入っている感じですね。最終的に岐伯は、「人体は限りなく陰陽に分類できる」と言っています。

人体の腹側は陰で背側は陽、では両脇は?

人は母の胎内でくるんと丸まっています。その時、お腹側は内側にあって陰になり、背中側は外側にあるので陽だと考えます。では両脇はどうでしょう?背中でもお腹でもない。陰でも陽でもないと考えるのでしょうか?

答えは「陰でも陽でもある」です。物事は分類する相手次第で陰にも陽にもなり得るということです。

鍼灸や按摩で用いる経絡(けいらく)にも陰陽があり、三陰三陽といいます。三陽とは太陽(たいよう)、陽明(ようめい)、少陽(しょうよう)です。ここでは難しい話はしませんが、この3つ、1枚の扉のように連携していると考えます。外に向けて大きく開く側を太陽、内に向けて閉じる側を陽明とします。その開閉を助ける軸の部分が少陽です。3つに分かれているけれど、3つが協力しないと扉としての機能は立ち行かないというのが根本の考え方。

漢方で健康回復や病気の予防をしようとするとき、さらに健康と美容を向上させるとき、必ず陰陽バランスを考えます。その時にぜひ今回の話を思い出してください。明確な陰陽の分類はないということ、見る角度によって違うこと、互いに連携して自然や人体を作り機能させているということ。

世界の事象も同じです。良い面と悪い面、好きなことと嫌いなこと、正しいことと間違っていること。見る角度が違えば陰陽が変わります。おおらかな気持ちで陰陽の揺れを感じてみましょう。違った世界が見えるかもしれません。

齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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