- 飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。
腎は気の銀行、冬は気の貯蓄がおススメ
気の省エネ生活 vol.18
冬は閉蔵(へいぞう)といい、門戸を閉ざしてとじこもる季節です。
地は凍てついて寒さが厳しいので天の陽気もこれをやわらげることは出来ないと言われます。
中医学の古典には、「冬至の日から六十日間は陽気が消滅して、陰気が全盛となる時期であり、このとき厥陰(けついん)の気が盛んになる」と書かれています。
厥陰というのは、“陽気がつきた陰”という意味です。
陰の力
陰陽の“陰”とは何なのでしょうか?
陰陽論(あらゆるものは陰と陽の2つの性質から成るという自然哲学)を身体の生理機能や動きで例えてみます。
呼吸:呼く(吐く)のは陽の力、吸うのは陰の力。
体温:温めるのは陽の力、冷やすのは陰の力。
血圧:血圧を上げるのは陽の力、下げるのは陰の力。
免疫力:攻撃するのは陽の力、攻撃しないようにするのは陰の力。
行動:動くのは陽の力、動かないでいるのは陰の力
呼吸において吐くことと吸うことはそれぞれ陽と陰の力です。
また、活動の状況に応じて速く呼吸するのは陽の力、ゆっくりと深く呼吸するのは陰の力と考えることができます。
体温を一定に保つのは陰陽のバランスです。
食事をすると熱くなるように、人は活動によって熱を発生しています。温めるのは陽の力ですが、冷ます力も必要です。体温調節においては、冷ます力は陰の力と言えます。
プレゼンテーションや講義など人前で話すとき、血圧がある程度上がることでパフォーマンスを保つことが出来ます。これは血圧における陽の力です。終了したあとは速やかに血圧は下がりリラックスします。このとき血圧を下げるのは陰の力です。
異物を攻撃して身体を守るのは免疫力の陽の側面。
口から入る食べ物(一般的に摂られる食材)や自分の身体を攻撃しないようにする力は免疫力の陰の側面と考えられます。
このように見ると、陽と陰に優劣はなく同等であり、バランスを保つことが大切だとわかります。
スイッチをOFFにするのが「陰」の力
陰陽のバランスはスイッチのONとOFFに似ていますね。
行動について言えば、動くときには陽の力が必要で、動かないでいることには陰の力が必要です。
動かないでいることに力が要るのでしょうか?
皆さんは10分間、何もしないで居られますか?
私はじっとしていられるかどうかで「陰の力」をチェックすることがあります。
駅のホームに着きあと数分で電車が来るという場面、仕事帰りは陽が高ぶっていますのでそのままのテンションでいくと、たった数分の待ち時間でもじっとしていられず、用もないのに携帯電話を取り出して操作し出します。
動くことはスイッチON(陽の力)ですが、ONのままでは困ります。
OFFにする力(陰の力)が弱いと、陰陽バランスを欠いて生理機能が乱れ、呼吸が常に浅くて速い、血圧が上がったままで下がらない、緊張が解けずリラックス出来ない、夜なのに眠れないなどさまざまな体調不良が起こります。
陽の力が亢進していて陰の力不足を感じるときは、意識的にスイッチをOFFにする時間を持ちましょう。
昼食後と夕方に3分間目を閉じてじっと静かにしてみてください(「抑目静耳」コラムvol.2)。
腎は気の銀行
活動の原動力となる“気”は、食事と呼吸、太陽の陽気を浴びるなどして日々作り出され、そのつど消費し余れば備蓄されます。五臓の中で気を備蓄する場所が腎です。私たちは気を腎という銀行に預けていると言えます。
食事が適切に摂れていない状況や、多忙と睡眠不足が続き活動過多になっている状況など、いわゆる“無理をしている“ときは、腎に貯蓄した気を切り崩して活動していることになります。
冬は陰を養い、気を保つ
四季はつながって循環しています。冬に閉蔵することは春に発陳(はっちん)するための力を貯えることでもあります。
発陳とはいきいきと発生し繁栄しようと動き出すことです。発陳(陽の動き)のために閉蔵(陰の動き)が大切ということですね。
冬は「陰を養い、気を保つ」ことが養生の原則となります。これが十分でないと、春にイライラ、不眠、めまい、頭痛、血圧上昇、花粉症、湿疹、ニキビ、自律神経失調症などの不調が起こることがあります。
冬、しっかりと「陰」を養うために、よく眠り、季節に合った食材と調理法で身体を養い、冷やさず、無理をせず、むやみに気を消耗しないように心掛けましょう。
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