- 飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。
心の養生~秋は「収」、志安らかに心穏やかに
気の省エネ生活 vol.16
中国医学の基礎理論と養生法がまとめられている『黄帝内経』によると、健康に過ごし天寿をまっとうするには「飲食」、「起居」、「養心」が大切だと書かれています。
「養心」とは心を養うということですので「心の養生」と捉えてみましょう。形の見えないものほど大切で難しいものですが、養生においても「養心」がもっとも大切で難しいのではないでしょうか。
今回は「養心」を季節や五臓との関係で見てみます。
春に生じ、夏に長じ、秋に収め、冬に蔵する
黄帝内経の『素問』では、四季における肉体的・精神的態度を論じ、天地の気に調和して生活すべきであることを述べています。
四季における天地の気は「生・長・収・蔵」というリズムで変化しています。
「生・長・収・蔵」とは四季(春・夏・秋・冬)と対応した自然界のリズムを表現しています。
植物の生長発育に合わせてみるとわかりやすいでしょう。
春、植物は発芽して生まれます(生)。夏にぐんぐん生長し、花を咲かせ実を結び変化します(長)。秋に生長は収束し実や葉を落とし(収)、冬は地中にひっそりとこもって春の芽生えをじっと待ちます(蔵)。
養生の原則のひとつである「天人合一」、簡単に言うと「自然に生きる」ということなのですが、そのひとつが「生・長・収・蔵」という自然のリズムに心と体の動きを合わせて過ごすということになります。
では、四季における「養心」について、黄帝内経ではどのように述べられているでしょうか。
春
すべてがいきいきと発生し動き始める時です。
冬の間に深くしまい込んでいた志をおこし、抑えつけることなくのびのびさせます。
夏
花咲き実る盛んな時であり、志も外に向けて広げ、鬱積することなく発散させます。
秋
天地の気が引き締まってすべてのものが収まります。
志は安らかにして、遂げられなかったことを悔やむことなく、心を穏やかにゆったりとさせます。
冬
もろもろのものが閉じこもる時で、気を静めて志を伏せ、すべてにおいて満足するようにします。
心の養生においても陰陽のリズムがあることがわかりますね。
陽の季節には外向きにのびのびと思いを発散し、陰の季節には落ち着いて内に志を秘めて蓄えておきます。
四時(季節や一日の時間の流れ)には陰陽のリズムがあり、外向きや内向きの方向性があるわけですが、自然と一体である人の体(行動)と心(気持ちの流れ)にもリズムや方向性があるようです。
頑張っているのに物事が上手く進まないとき、タイミングが少し違うのかなと解釈してみるのも心の平安を保ち心を養うことになると思います。
心配や不安が多いのは疲れのせい?
四季に「生・長・収・蔵」があるように、人の五臓には「怒・喜・憂・悲・恐」という精神的なはたらきがあります。
肝は「怒り」、心は「喜び」、脾は「憂い」、肺は「悲しみ」、腎は「恐れ」の感情と関係があります。喜びが良い感情、怒りは悪い感情ということではなく、どの感情も人の成長発育には必要なもので五臓が健康的であれば自然と発生する感情です。
ただ、それぞれの感情が激しい場合には対応する五臓を傷めてしまいますし、いずれかの五臓が弱ると対応する感情が発生しやすくなります。
「五臓が弱る」というのはここでは単純に「疲れている」と解釈してみてください。
つまり、疲れていると、怒りっぽくなりますし、心配や不安が多くなり、悲しくもなります。何かの感情が襲ってきて抜け出せないときは、疲れ過ぎているのかもしれませんので、まずは休息をとることが養心につながります。
気分が沈むのは秋だから?
また、五臓と季節も対応しており、秋は肺が活躍している季節であると同時に肺に負担がかかりやすい季節です。すると、秋は悲しいという感情が起こりやすい時期とも言えます。
この時期、なんとなく物悲しい、気持ちが沈みがちになるとしたら、季節のせいかもしれません。肺を労わるために、空気がきれいなゆったりと呼吸できる落ち着いた場所で好きなことを楽しんでみましょう。
「養心」という言葉には自然との調和や自分自身への労わりという意味合いも含まれているように感じます。
季節と心の陰陽リズムの相関、季節により表れやすい感情、疲れによって精神が不安定になりやすいこと、こういったことを知ることは心の養生の助けになるかと思います。
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