- 飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。
睡眠は自然のリズム ~ 陰陽リズムを意識した起居
気の省エネ生活 vol.8
前回(vol.7)は睡眠の大切さについて触れ、日付が変わる前に就寝することや起床と就寝時刻を出来るだけ季節の時間に沿うようにすることをお伝えしました。
寝不足や不眠で悩む人が少なくないと思われますので、今回も続けて睡眠について見ていきます。
順応四時(じゅんのうしじ)
身体には体内時計があり生体リズムを刻んでいると言われています。睡眠について研究されている先生が「生命は30億年かけて宇宙のリズムを生命の中にコピーした」とロマンチックに語っていたのを覚えています。人は地球の自転・公転、月の満ち欠けなど宇宙からのシグナルに呼応しつつ生体の仕組みを整えていると説明されていました。つまり睡眠は自然のリズムということで、スムーズな入眠と快適な睡眠は自分自身が備えている生体リズムを整えることで得られると考えられます。
漢方では一日や一年という時間の区切りを“四時”という流れとして捉えます。一日は朝・昼・夕・夜という四刻、一年は春・夏・秋・冬という四季です。四時のリズムに順応することを「順応四時」といい、陰陽バランスを保つための基本になります。
陰の時間である夜中に眠れないという不眠はまさに陰陽バランスの乱れです。快適な睡眠を求めるならば四時に順応した生活を送ることが根本となります。
起き臥しにきまりをつける
「日常生活の起き臥し、立ち居、普段のようす、動静」といったことを“起居”といいます。
中国医学の基礎理論と養生法がまとめられている『黄帝内経』は、黄帝と師である岐伯(ぎはく)との問答形式で書かれています。その一書『素問』の冒頭、黄帝は岐伯に問います。
「大昔の人々は百歳をこえてもまだその動作が衰えることがなかったのに、今どきの人々は五十歳になればよぼよぼしてくる、これはどうしたわけだろう?」
これに対して岐伯が次のように答えます。
「大昔の人々の中で養生の道理をわきまえた者は、春夏秋冬の天の気に調和し、飲食に節度があり、起き臥しにきまりをつけ、みだりに心身を過労させることがないので、肉体も精神もともに調和がとれていました。」
養生において大切なポイントは次のように集約されます。
・天の気に調和する(順応四時)
・節度ある飲食
・起居を整える
・過労・心労を避ける
睡眠においても養生のポイントは同じです。睡眠に不調がある場合は生活を振り返って、まずは四時に順応するよう起居を整えることが大切です。
たとえば、
- ・朝は(同じ季節内では)ある程度起きる時刻を一定にします。
前日の就寝が遅くなっても起床時刻はあまり変えないようにしてリズムを保ちます。 - ・朝の太陽を浴びて、朝食を摂ります。
朝の太陽光で体内時計はリセットされ、また規則正しい朝食は体内時計を整える効果があると言われます。
起きたときにお腹が空いているように夕食の時刻と量を調節します。
朝食は気を補い温かく消化の良いものを摂ります。
自然も人も明け方に気温・体温が低くなっているため午前中は体を冷やすような飲食は避けます。 - ・陽の時間帯である日中は活動します。
陽の時間には陽の活動をしてメリハリをつけます。
陰陽は反対の性質でありながら、相手に依存するという特徴があり、どちらか一方だけでは存在できません。
昼寝は不眠の人にはおすすめしませんが、
昼食後に座ったままで数分間目をつぶって休むと(vol.2:抑目静耳)
気血が回復し午後の活動力となるとともに、夕方の陰への切り替えがスムーズになります。
陰陽リズムを意識すると、質の良い睡眠が得られるかどうかは夜だけの問題ではなく、朝起きたときから始まっていることに気づきます。起居を整えることで夜は自然に眠くなるという体のリズムも整っていきます。
次回は・・・、イライラして眠れない、疲れているのに眠れない、眠りが浅く途中で目が覚めてしまうなど、不眠といっても人によりその様子は異なります。不眠のタイプと原因を見ながら、夕方以降の起居についてお伝えします。
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