- 飯田 勝恵 - Katsue Iida[薬剤師・薬日本堂漢方スクール講師]
静岡県立大学薬学部卒業。1998年薬日本堂入社。約10年間の臨床と店長を経験。店舗運営や相談員教育などに携わり、その後「自然・人・社会に役立つ漢方の考えをより多くの人に伝えたい」と講師として活動。薬だけではない漢方の思想や理論に惹かれ、気功や太極拳、瞑想なども生活に取り入れながら漢方・養生を実践している。
口に入れたもの、栄養になっていますか?
気の省エネ生活 vol.6
健康情報の中で“食”に対する関心はとても高く、その多くが「何を食べるか?」に向けられていると感じます。
前回、「食べ過ぎない、よく噛む、食べた後少し動く」ことは多くの人におすすめの食養生だとお伝えしました。食養生については「何を食べるか」だけでなく、「どのように食べるか」ということも大切だと思います。
今回も食材の性質や調理法とは別の視点で食養生を見直してみます。
食養生も五行説で総合的に見よう
漢方の「五行説」、ご存じでしょうか。「万物は5つの要素から成り立っている」と考える自然哲学です。
もう少し説明しますと「物事はひとつの要素だけで成立するのではなく、いくつかの要素によって成り立っており、各要素の連携が大切である」という考え方です。
食材の性質(四気・五味・帰経)を学び、天地人(時・場所・人)に合わせてレシピをつくることはとても大切です。そして、食材や調理法の選択だけでなく、その他の要素も含めて大きく食養生を捉えてみましょう。
食べものが持つ栄養は可能性であって、「口に入れたもの」=「栄養」ではないと思います。
消化吸収されれば栄養となりいのちを養いますが、消化吸収されなければ栄養にならずに排泄されるか、あるいは体内に滞り生理機能を阻むこともあります。漢方では消化吸収されずに体内に滞ったものを「痰湿」と呼びます。これがもとで様々な体調不良や病気が起こります。
食べたものが消化吸収されてその人の栄養になるかどうかは食材の問題だけでなく“食べ方”や“食べる時間”、“心の状態”など他の要素も関係すると考えます。
穏やかな気持ちで食べよう
食事に際しての心の状態について、『養生訓』の中で貝原益軒は怒りや心配ごとは消化吸収に良くないと述べています。
怒ったあとですぐに食事をしてはいけない。また、食事のあとで怒ってはいけない。また心配ごとをもって食事をしてはいけないし、食後に心配してもいけない。
(貝原益軒 『養生訓』 全現代語訳 訳:伊藤友信 講談社学術文庫)
心配ごとがあると食べものが喉を通らない、不快なことを思い出してイライラしながら食べたら食後にお腹が張るなどの体験をしたことはありませんか?不安や考え過ぎは脾胃(胃腸)のはたらきを低下させます。また、イライラしたり怒ったりすると肝の“気をめぐらせる”というはたらきが乱れて消化吸収に影響を及ぼします。
食事中、心ここにありますか?
テレビに夢中になりながらの食事と、自然の恵みや作ってくれた人に感謝して五官で感じていただく食事、両者で何か違いがあるでしょうか?
前者は食事に対しては“心ここにあらず”の状態となり、食事中は味もわからず、食後は何を食べたか思い出せないことがあります。一方後者は食べることに意識を向けて食事をしています。
見えない関係性を見るのが漢方の特長のひとつだと思います。同じように良い素材で心を込めて調理されたものであっても、気血(栄養)になるかどうかは食べる人の意識や食事の仕方により異なるのではないでしょうか。
忙しく過ごしていると2つの事を同時に行なうことは多々あり、食事の時間もつい同時進行で何かをしながら食べてしまうことがあります。最近は携帯電話を片手に持ちながら食事をしている光景をよく目にします。食べて消化吸収するにはエネルギーが必要ですから(vol.4)、せっかく食べるなら効率良く消化吸収してしっかり栄養に変換できるよう、食事の際は出来るだけ食べることに意識を向けたいと思います。
見えるものの形を整えることも大切ですが、形のないものほど実践するのは難しいです。
心穏やかに、食べることに意識を向けた丁寧な食事を心掛けていきたいですね。
さて、先ほどの五行説の図に“?”がありました。皆様はそこにどのような言葉を入れますか?
「何を食べるか」だけでなく「どのように食べるか」という視点も持ち、今の自分に大事だと思うことを心がけてみましょう。
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