- 齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]
1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。
驚くべき観察眼!経絡に沿ったカゼの進行
黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.20
ゾクゾク寒気は病邪侵入のサイン
カゼやインフルエンザが流行する季節がやってきました。今年は新型コロナウイルスによる感染症も同時に注意せねばなりません。
漢方では、これら外界から体表を襲ってくる病気を外感病(がいかんびょう)と呼び、さらに冷たい空気、いわゆる風寒邪(ふうかんじゃ)の影響によるものを傷寒(しょうかん)と呼んでいます。
なんとなく首から肩、背中の辺りがゾクゾクして「カゼかな?」と思うタイミングがありますね。これが風寒邪を受けたサインです。
『素問:熱論篇第三十一』で岐伯は、風寒邪を受けた後の病状について、経絡に沿った進行の仕方を説明しています。実におもしろいのでみていきましょう。
正気と病邪の攻防3日間
漢方では、身体には正気(せいき)という生命力、治癒力ともいえる力があると考えます。
風寒邪が鼻やのど、毛穴など体表部から侵入しようとした時、正気が旺盛であればはねのけることが出来ます。
簡単にいうと、侵入者を入り口で通せんぼして追い出してくれるイメージです。
入り口では、風寒邪が押し入ろうとし、正気が押し返すという戦いが行われます。
これがカゼの時の微熱・発熱です。
初日、病邪を受けるのは足太陽膀胱経(あしたいようぼうこうけい)という経脈です。この経脈は目頭から頭頂部、項背部を走っています。カゼのひき始めに頭痛がして、首から肩、背中が強張るのは、ここに病邪があるからです。
二日目、 足陽明胃経(あしようめいいけい) が傷寒の病を受けます。この経脈は瞳の下から鼻の脇、のどを通って胃へと通じています。寒気と頭痛の後に、鼻の症状が出てくるのは、ここに病邪があるからです。
三日目、 足少陽胆経(あししょうようたんけい) が病を受けます。この経脈は目尻から耳のまわりをぐるっと囲んで、首、胸、脇に通じています。カゼで、時に脇が張って苦しく、耳が詰まったように痛み、突発性難聴のような状態になるのは、ここに病邪があるからです。
大切なのは、ここまでの段階で行う養生です。無理をしないで早く寝ることで正気を高めることができます。生姜湯を飲んだり、ねぎをたっぷり添えた温かいお粥やうどんを食べて内側から温めれば、汗をかくと同時に病邪を外へ押し出せます。
正気が押し負けて病邪の侵入を許すと…
傷寒の病がさらに奥へと進行するとどうなるでしょう。岐伯は、四日目以降の状態を次のように説明しています。
四日目、 足太陰脾経(あしたいいんひけい) が病を受けます。五臓に通じる陰経の病は、これまでの五腑に通じる陽経よりもさらに深いイメージです。この経脈は腹部を縦に通じているので、ここに病邪があるとお腹がふくれて苦しく感じます。
五日目、 足少陰腎経(あししょういんじんけい) が病を受けます。この経脈は足裏の湧泉(ゆうせん)というツボから腎を通じ、肺、のど、舌の根元に連なっています。カゼで生じた高熱がここに至ると、口と舌が乾いて、水をたくさん飲みたがるようになります。
六日目、 足厥陰肝経(あしけついんかんけい) が病を受けます。この経脈は鼠径部から生殖器を通じて肝に至っているので、陰部に症状があらわれるといいます。
もうここまで来ると治すのも一苦労。たかがカゼと思わずに、最初から早めの対処が必要です。
ところで、早く治したいからと、無理に食事をするのはご法度。
「滋養強壮が大事だから肉を食べよう!」と考えて、熱が少し下がった時点で肉を食べると、食べ物の熱性と体内の熱がぶつかりあって、発熱しぶり返すことがあります。
必要な時に必要なものを摂り入れる。例えば、カゼの治りかけで熱が少し残るのであれば、消化の良いお粥に大根を加えるなど。
肝に銘じて過ごしたいですね。
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