- 齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]
1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。
身体が萎えて動けない、「痿証(いしょう)」って何?
黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.24
五臓が担う肉体の機能
前回は「通りが悪くて痛む、痹証(ひしょう)」のお話をしました。
今回、黄帝と岐伯は「身体が萎えて動かない、痿証(いしょう)」について問答をしています。
皆さん、自分の身体は思い通りに動きますか?
自分の肉体がどのように成り立っているか、目を向けてみましょう。
まず骨があります。理科室にあった骨格見本を思い浮かべてみるとよいですね。
骨と骨は筋によってつながれ、いく筋もの血管が張り巡らされています。その上にふっくらとした肉をまとい、表面は皮膚でおおわれている。それが私たちの肉体です。
漢方では、骨、筋、血管、肉、皮膚、それぞれを五臓が分担して機能させていると考えます。
骨は五臓の腎、筋は肝、血管(漢方では血脈といいます)は心、肉は五臓の脾、皮膚は肺がそれぞれ健康状態を担っています。五臓が元気であれば肉体は充実するし、逆に五臓の調子が悪ければ肉体の状態に影響します。
身体が萎えて力が入らない…
どうにも身体に力が入らないという時があります。
胃腸が弱って食事が思うようにとれない、年齢を重ねて弱ってきた、病気をして寝込んでいたなどが該当します。
よくみられるのは、下半身の脱力感です。
手足に力が入らず、皮膚や筋肉がしびれて感覚がなくなってきます。皮膚も乾燥してツヤがなくなり、ひどいと関節が脱臼したように力が抜けて動けなくなってしまう…
漢方では、このような状態を痿証(いしょう)と呼んでいます。
実は今回の新型コロナウイルスによる肺炎の症状、漢方では「肺が熱を帯びる」と考えます。
この時に、体表をおおっている皮膚の張りがなくなって弱くなり、病魔が去らないと動けなくなる痿証につながるととらえることが出来るのです。
五臓と痿証
「身体が萎えて動けない」といっても、症状のあらわれ方はさまざまです。
先ほど、肺の熱の話をしたので、他の五臓と痿証をみてみましょう。
興奮するなどして五臓の心(しん)に熱を持つと、血が上にのぼってきます。
よく「頭に血がのぼる」といいますね。この時、足を満たしている血も上にのぼり、足に血が足りなくなるので、膝や足の関節が曲がって立っていられなくなります。
イライラして怒りが強いと、五臓の肝に熱が生じます。
すると、肝が担っていた筋が乾いてひきつり、手足の曲げ伸ばしがしづらくなります。
五臓の脾は、飲食物の消化吸収を担っていますが、ここが熱を持つと、連動している胃が乾いて水を多く飲むようになります。湿気の多い場所で水仕事をしたり、湿度の高い住環境に長くいても、肉に水がしみ込んで手足が冷たくなり、麻痺して動かなくなります。
長時間歩くなどして腎に熱を帯びると、骨を満たす髄(ずい)が減って、腰や背中が曲がったまま伸ばせず、足もガクガクして力が入らず立っていられなくなります。
痿証の予防に、漢方の知恵を活かしましょう。
五臓はそれぞれ助けてくれる食材の色が決まっています。
肝は青、青々とした緑の濃い野菜を摂るようにしましょう。心は赤、脾は黄色、肺は白で腎は黒。
日々の食卓を彩り鮮やかにすることが、健康を守るひとつの手段と考え、実践してみてください。
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