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公開日:2020.06.20 更新日:2020.06.204793view

「玉が転がる」「浮いた羽」さまざまな脈で身体を知る

黄帝と一緒に『素問』を学ぶvol.16

全身状態を語る脈
「脈をとる」という言葉があります。脈は心臓の拍動そのものがあらわれるものなので、生命を維持する心臓に不調がないかどうか確認するためにも重要です。

漢方では「脈診(みゃくしん)」といって、診察方法の重要なひとつとされ、全身の状態を知ることができます。『黄帝内経』には、脈に関する記述がたくさんあります。どの脈がどのような不調をあらわしているのかは複雑で、とてもこの紙面では紹介できません。今回は、先人たちが脈をどのように表現しているのか、第十八篇「平人気象論」からご紹介します。

脈はどこでとるかご存知ですか?実は全身でとれます。首には頚動脈があり、足首の辺りでも脈に触れます。誰もが触れやすく、動きがわかりやすいのが手首で、ここで診る方法が一般的になりました。

脈診をすることで、五臓の心の不調がないか、血の通り道である脈管の流れがスムーズか、気血の不足はないかなどがわかります。
健康な人の脈を平脈(へいみゃく)とか常脈(じょうみゃく)と呼び、次のようなポイントがあります。

速度ひと呼吸で4回「一息四至」
リズム均等でスムーズ
硬さ 程よい硬さ
勢い程よい勢いと力がある
長さ人差し指、中指、くすり指の3本で脈が触れる(寸・関・尺)

季節で異なる脈
脈は体調によって変化します。体調に変化をもたらすひとつの要因として、季節の移り変わりがありますが、春は肝、夏は心、秋は肺、冬は腎というように、影響を受けやすい五臓にも一定の法則があります。
おもしろいのは、季節によって平脈、普段の脈にも違いがみられることです。そしてその脈の表現がまた特徴的です。

春の平脈は微弦です。春は自律神経や情緒を担う肝に負担がかかるため、平脈も少し張っています。弓に張った弦のように、ピンと弾むような脈になります。
夏の平脈は微鉤です。夏は心の力が旺盛になるので、脈も勢いがあります。そのため、釣り針の形のようにぐるっと盛り上がってスーッと去るような脈になります。

秋の平脈は微毛です。秋は呼吸を担う肺の状態が脈にも出やすく、しかも万物の勢いが収まっていく時期ですから羽毛をさわったようにふんわりした脈になります。
冬の平脈は微石です。冬は万物が力を蓄えて潜む時期なので、腎の脈は奥に潜んで触れにくく、指先で小さな石をはじいたようにコツコツとした感じがあります。
微妙な脈の違いを、羽毛や石など身近なものに触れた感覚で表現しているのは、とてもおもしろいですね。

さまざまな脈の表現
その他にも、脈にはさまざまな表現があります。

春に変調をきたしやすい五臓の肝は、基本的に弦脈がみられます。平常な状態では、同じ弦でもゆるやかで、長い釣り竿の先がゆらゆら揺れるようなしなやかさがあります。不調があると竹竿をなでた時に触れる節のようなものがあるといわれます。さらにひどい状態だと、竿のような弾力がなく、弓に張ったばかりの弦のようにがちがちで弾くような脈がみられます。

コロコロと玉が連なって転がってくるのをなでるような脈、太鼓を叩くときのようにドコンドコンと押し返してくるような脈、鳥のくちばしでつつくよう感じの脈、絹糸のような細い脈もあれば、綱のように太い脈など。

数値ではあらわせない身体の状態を、どのように表現すれば理解できるだろうか、共通の認識として共有できるだろうか。こんな先人たちの苦労とイマジネーションの力が伝わるようです。

機会があれば、ぜひ脈診も学んでみてください。

齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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