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公開日:2018.06.05 更新日:2020.05.1936786view

子午流注(しごるちゅう)を使って経絡と臓腑を調える

鍼灸雑話 その5

東京の自宅近くに、小さな「庚申堂」があります。
中国道教と、日本の密教や民間信仰などが複合した「庚申信仰」の名残ですね。
庚申の日の夜は、眠らず静かに過ごして禍を避けようとする信仰で、江戸時代にはかなり流行ったそうです。

そもそも庚申とは「庚(かのえ)」と「申(さる)」を組合わせた言葉で、干支(天干+地支)という古い理論がベースにあります。

【天干(てんかん)】
甲乙丙丁戊己庚申壬癸 = 十干

【地支(ちし)】
子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥 = 十二支

今年は「戌年」なので、「犬」のキャラクターがよく使われますね。
動物のイメージが強い干支ですが、本来は「数」を表す記号として使われ、動物は無関係なのです。

やがて干支は、日付や年、時間や方位などにも応用されました。

甲子園球場、壬申の乱、子午線、丑の刻参りといった言葉にも干支が見られますね。
「甲+子」から始まる60通りの組み合わせで一巡しますが、60歳で「還暦」になる意味もここにあります。

医学では、「六臓六腑には、それぞれ活性化する時間帯がある」という人体の理論に、それぞれ十二支を割振りました。
これを「十二時辰(じゅうにじしん)」あるいは「子午流注(しごるちゅう)」といいます。

鍼灸に応用する場合、時間帯は気にせず、症状がどの経絡(経筋)上にあるのかがポイントです。

子午流注で腰痛治療

友人の結婚式へ行った時の話です。

式が始まる直前、受付をしていた女性が苦しそうにしているのに気がつきました。どうやら、腰が痛くて立てないようです。 
見て見ぬふりもできないため、鍼灸師であることを名乗り、施術をさせてもらいました。

「どこが痛みますか?」
と質問すると、腰を通る「膀胱経」上に激痛があり、全く腰が動かせないとのこと。

そこで、テーブルに置いてあった「爪楊枝」を一本拝借し、女性の手首を通る「肺経」のツボに爪楊枝を当て、意念を集中させました。
30秒ほどしてから、
「ゆっくり腰を動かしてみてください」
というと、
「あ!!!動ける!!」
ゆっくり椅子から立てました。

同じことを5分ほど繰り返すうちに、痛みはあるものの歩くことができるようになり、元気に式も披露宴も出席されていました。
これは、子午流注を鍼へ応用したものです。

全ての臓腑経絡に子午関係があり、痛む部位と拮抗する経絡の操作をして治療するという理論です。
今回の例なら、痛みのある膀胱経に対するのは肺経なので、そこのバランスを調えました。

もちろん、これだけでは不充分なので、他にも術を施しますが、これだけでも効果は出ます。
また、鍼を刺すことは重要でなく、たとえ爪楊枝であろうが指であろうが、同じような効果を出すことは可能です。

実践してこその理論

以前、神戸の書店で「一本鍼」という本を見つけ、その横に「100本鍼」という本を見つけました。
「どないやねん!」と突っ込みつつ、同時に「どっちでも良い」のだと解りました。

理論は、道に迷わないための地図であると私は考えています。
同時に、私たちは外の世界の情報、常識、意見に左右されやすく、また鵜呑みにしやすいものです。
しかし、自分の体で体験し、わかったものは別です。
山を歩いていて霧で道に迷ったとしても、山にいることはわかっています。
わかってさえいれば、なんとでもなるものです。

理論を知ったら、自分のものになるまで何百回も何万回も実践し、地図が正しいかどうかを確認してください。
そうして、古代の智慧を自分で掴み取りましょう!

山本 浩士
山本 浩士 - Hiroshi Yamamoto

鍼灸師(厚生労働大臣免許・国家資格) 兵庫県西宮市出身。

幼少より武術修行を始め、師より医武同源の考えを教わり、武術と医術の両立を志す。

高校卒業後、大阪のアクションチームに所属し、映像や舞台などで仕事をする。

2009年、はり師・きゅう師の国家資格を取得し、地元兵庫県西宮市で「はり灸楊鍼堂」を開院。千葉の恩師から、参禅や滝行の修行を通して伝統医術を学ぶ。また、数名の先生から江戸時代の鍼術や道家気功鍼などを学び、難病や慢性疾患に対する臨床経験を多く積む。2015年に東京へ移転。2016年から、ポーランドやイタリアで鍼灸、気功、武術、導引按腹の出張講義を開始。2017年11月から、自由が丘で「漢方鍼灸 和氣香風」を妻とともに開業。

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