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公開日:2018.05.05 更新日:2020.05.1910068view

普通は知らない医学(漢方・鍼灸)の流派のはなし

鍼灸雑話 その4

流派というもの

「黒い猫でも、黄色い猫でも、ネズミを捕るのが良い猫だ」
これは四川省に伝わることわざで、鄧小平が言ったことで有名になった言葉です。

武道、華道、茶道、芸道など、伝統文化の世界には「流派」というものが多く存在しています。
「◯◯流」や「□□派」、あるいは「☆☆会」「△△式」といった具合に、流派というのは共通の思想や理念、風格や方法論を持つ学者や技術者などが作るグループのことと言えます。そうして、派閥争いが勃発します。

意外に思われる方もいるようですが、漢方医学にも流派が存在しています。

東洋医学では、まず「中医派」と「日本漢方派」とに大別できます。その中に「古典派」と「現代派(西洋医学派)」があり、さらにはそれらを合わせた「折衷派」も存在することになります。

漢方における流派

日本漢方において、流派というものが形になってくるのは、鎌倉時代から江戸時代にかけてと言われます。

室町時代後期頃、金元時代に用いられていた理論に準ずる「後世方(ごせいほう)派(後生派)」が興ります。これは主に「唐」や「宋」以降の新しい理論を用いる学派です。
それに対して、もっと古い時代の書物に準ずる「古方(こほう)派(古医方派)」が江戸時代に興ります。「傷寒論」などの古典を重視する学派です。
そうして、それぞれの良いところを取り入れた「折衷派」が興ることになります。

また、江戸時代後期からは、ヨーロッパの医学が「蘭方(らんぽう)医学」として発展しますが、やがて蘭方と漢方の良いところを取り入れる「漢蘭折衷派」も出てきます。

鍼灸における流派

最も古い医学書と称される「黄帝内経」があります。
次に、この内経の内容を整理した「難経」が書かれました。
その後に、両者を整理整頓しながらまとめられた「甲乙経」が誕生します。

鍼灸の流派は、主にこの三つの学派から成立してくると考えられています。

そこに加え、
・経絡を重視する派
・経穴を重視する派
と別れ、
・鍼を重視する派
・灸を重視する派
・手技(技術)を重視する派
・鍼と灸の両方を重視する派
さらには、
・鍼と灸と薬を重視する派
・刺絡(瘀血を抜く)を重視する派
・・・と、細かく分派し、複雑に絡まり合いながら発展してきました。

日本独自のものとしては、
・捻鍼派
・打鍼派
・管鍼派
と鍼の打ち方によって3つに大別できます。

室町時代頃に、木槌で鍼を打って治療をする「打鍼術」が誕生します。
これは「多賀法印流」から生まれ、無分という僧が伝えたと考えられています。

そこから「意斎流」「夢分流」といった打鍼流派が生まれます。この派は佛教医学(密教)の流れを組み、今の経絡や経穴とはかなり異なる理論をベースにしている流派といえます。

中国伝来の捻鍼を用いる流派としては「吉田流」「匹地流」などがあります。

管に入れて細い鍼を打つという管鍼術は、打鍼と捻鍼を融合させた技法であり、「入江流」「杉山流」「杉山眞傳流」「石坂流」などに受け継がれ、明治維新後も日本独自の「和鍼術」として今に伝えられています。

それ以外にも、「今新流」「扁鵲新流」「坂井流」「雲海士流」など多くの流派が生まれ、江戸後期には数百もの鍼灸流派があったと伝えられています。

学説や理論というのは、現在でも次々と生まれては消えていきます。人の数だけ流派があると言っても過言はありません。
ただ、漢方医学(中医学含め)は「実証主義」です。つまり、どのような理論、道具、薬であろうが病気が治ることが第一、という立場です。「ネズミを捕るのが良い猫」の通りです。

どちらが優れているとか、どちらが正しいとか、そういう考え方ではなく「結果が出るなら全て良し」とした上で、自分の道を迷わず突き進んでいきたいものです。

山本 浩士
山本 浩士 - Hiroshi Yamamoto

鍼灸師(厚生労働大臣免許・国家資格) 兵庫県西宮市出身。

幼少より武術修行を始め、師より医武同源の考えを教わり、武術と医術の両立を志す。

高校卒業後、大阪のアクションチームに所属し、映像や舞台などで仕事をする。

2009年、はり師・きゅう師の国家資格を取得し、地元兵庫県西宮市で「はり灸楊鍼堂」を開院。千葉の恩師から、参禅や滝行の修行を通して伝統医術を学ぶ。また、数名の先生から江戸時代の鍼術や道家気功鍼などを学び、難病や慢性疾患に対する臨床経験を多く積む。2015年に東京へ移転。2016年から、ポーランドやイタリアで鍼灸、気功、武術、導引按腹の出張講義を開始。2017年11月から、自由が丘で「漢方鍼灸 和氣香風」を妻とともに開業。

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