- 劉 梅 – Mei Ryu[中医師]
中国黒龍江省生まれ、黒龍江中医薬大学卒業後、ハルビン医科大学付属二院に内科医として臨床を経験。1994年に来日、北海道大学医学部客員研究員を経て、2001年、薬日本堂に入社。主な著書『中国の女医さんが教えるおいしくて身体にいい中華』『病気・症状を改善 これならできる漢方ごはん』。
日本の春を代表する花、桜。花や葉を味わい、のどの良薬に樹皮を!
生薬の花めぐり(11)
「生薬の花めぐり」へようこそ!
このコラムは、次回が12回目、連載一年を迎えます。身近に咲く花を中心に紹介してきましたが、次回が最終回になります。花を見て楽しむだけでなく、食用になったり、実や葉や根などが生薬として使うことができるものが意外に多くありました。牡丹の根皮、芍薬の根、百合の根、蓮の実、しその葉や茎と種、たんぽぽなどは、私たちにとって、なくてはならない存在です。
今回は、桜に関するお話です。どうぞお付き合いくださいませ。
桜といえば
中国人の私にとって、桜といえば日本のイメージです。春の象徴でもあります。野生のものや栽培されたものがあり、近代の品種改良が行われ、今では種類がたくさんあります。桜の花の色はピンク、赤、白、が代表的な色ですが、緑もあります。目で見て楽しいだけでなく、桜の香りはリラックス効果があります。桜餅に使われる桜の葉が良い香りでお腹も心も嬉しくなりますね。
中国の昔の書物によると、桜の花と葉には咳を止めたり、喘息をやわらげたり、肺機能を高めたり、腸をうるおすなどのはたらきがあります。解毒作用もあるので二日酔いにも良いそうですよ。
下記のようなときに用います。
(1)咳や喘息
(2)便秘
(3)二日酔い
桜の花
花のはたらき
咳、喘息以外にも、美容、新陳代謝にも効果があります。また栄養学上ではビタミンA、B、Eが含まれているそうです。中国の一部の資料によっては、平性、辛味、肺に帰経すると書かれています。
花の使い方
日本では、桜の花の塩漬けが一般的です。満開の花と半分開いたくらいものを、花の茎がついている状態で採収してきれいに洗い、水をしっかりふき取り、傷まないように陰干しします。干したものにお湯を入れ、お茶として飲むとよいでしょう。
桜の果実
桜の実は酸っぱくて渋いので、食用には使われていません。かつては強壮薬として利用していましたが、一般的ではなかったようです。
桜の樹皮
日本独自の生薬になります。原種の一種とされるヤマザクラを使っています。日本の南半分と朝鮮半島の南部に分布する野生種です。その山桜の樹皮を使います。山桜の外皮を取り除き、乾燥したものが生薬の桜皮になります。
下の写真は山桜の花です。
桜の樹皮を薬として使うのは日本だけかもしれません。中国の伝統的な生薬を「中薬」といいますが、私が大学生のときの生薬の教科書、「中薬学」には桜皮はなかったし、一般的な中薬の書物にも記載がなかったので、少なくても生薬として中国ではポピュラーではないと思います。
桜皮は、古くから日本の民間療法として腫れ物などの皮膚病、解熱、咳止めなどに利用されてきた歴史があります。鎮咳、去痰作用のある漢方薬として知られています。
日本で桜皮が配合されている処方に十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)があります。
一説によると、十味敗毒湯は中国の『万病回春』(中国伝統医学の基礎理論、経絡、内科、外科、婦人科などの疾患の治療を含む書物)の荊防敗毒散を元に桜皮など加えて日本で独自の処方になったそうです。排膿、解毒などの効能があり、腫れ物や湿疹、蕁麻疹などに用いられています。また咳嗽、腸炎などにも応用されています。
この他に、桜皮を黒焼きにしてから粉にして白湯で飲み、しゃっくりに使う、あるいは皮膚病の外用薬としての記録もあります。
お花見のときこの話題でぜひ盛り上がってくださいね!
美しい花だけでなく、体にいいことがたくさん!の桜の魅力が伝わったでしょうか。
次回は、コブシとモクレンの花をお届けします。どんな生薬になるでしょう?どうぞお楽しみに!
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