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公開日:2017.07.01 更新日:2020.05.2011978view

百合の根は食べてよし、空咳・不眠・うつなどによし

生薬の花めぐり(3)

漢方薬のもとになる生薬は、何か特別なものだと思われることが多いのですが、実は道端に生薬の花が咲いていることがあります。まさに「すぐそこ!」に存在しています。前回までに、牡丹と芍薬の花と、根が生薬としてどんなはたらきをもっているかを紹介しました。今回は百合(ユリ)の花と百合根(ユリネ)の話をお届けします。

今、東京ではあちらこちらで百合の花が美しく咲いています。百合はユリ科の多年草で、アジアを中心に、ヨーロッパなどにも広く分布しており、原種は100種以上あるそうです。百合の花は「溢れる母の愛」の象徴となっています。

実は百合の花は見るだけでなく、一部の花は食用にもできます。百合根(鱗茎)は古くから食用と薬用に使われてきました。約2000年前の『神農本草経』(もっとも古い生薬の書物)には、根を生薬とした記載がありました。花は、初夏に、完全に開ききる前の蕾のとき摘み取り、根は秋に掘り出して収穫します。

観賞用の百合の花は、色が鮮やかで香も強くて食べられません。例えば下の写真、巷でよく見られるテッポウ百合の花は食べられません。食べられる百合の花は、中国の蘭州百合、宜興百合、龍牙百合などで、花の色はオレンジです。陰干した花をお茶にすることが多く、美肌やデトックス効果があります。生の花弁は、卵と合わせて卵焼きにしたり、肉類と煮込んだりして調理します。

ユリ科の植物の種類はとても多いのをご存知ですか?彼岸花、水仙、スズランなど、分類方法によってはユリ科に分類されていて、強い毒性を持つものもあります。食べ物なら玉葱、ラッキョウ、ニンニクなどもユリ科の植物。野菜の金針菜もこの仲間のノカンゾウ(萱草)です。食べると憂いを忘れるはたらきを持つとされ、「忘憂草」と呼ばれています。

根は、生薬として用いる場合は「びゃくごう」と呼ばれています。どんな種類でも生薬になるわけではなく、生薬になるのはオニユリ、ハカタユリ、ヤマユリ、コオニユリなどです。その鱗茎を乾燥させたものを使います。

薬用としては、発熱やかぜの後、肺(呼吸器)の潤い不足からくる空咳、咽痛または慢性の咳、痰が切れにくいにも使われています。以前は、結核の治療薬として多くの処方に配合されていました。2000年前の医学書、『金匱要略』には「百合病」という病名が登場します。女性の産前産後や更年期に、ほてり、イラつき、うつ、精神不安定といった症状、「食べたいが食べられない」「横になりたいが横になれない」などの状態を指します。百合の根がもつ安神効果で症状がよくなるため「百合病」という名前になったそうです。

これから秋を迎えると、乾燥しやすい季節になってきます。百合根は、蒸したり茹でたりして、お粥、炒めもの、煮物、スイーツなどに使うことができます。和食なら、茶碗蒸し、雑煮、きんとんなどもよいですね。便秘や皮膚の乾燥にも効果があります。蜂蜜と一緒に調理するとより効果的です。ただし、身体を冷やすため食べ過ぎに注意しましょう。

また、日本では、辛夷清肺湯という漢方処方に配合されています。

この写真は新宿御苑で撮ったオニユリです。

百合の花の魅力が伝わったでしょうか?!
今回は、歩く姿は「百合の花」だけではなく、健康で美しい肌になる百合の根と百合の花でした!次回は極楽浄土に咲く花、蓮の花の話題をお届けします。
お楽しみに!

リュウ・メイ
劉 梅 – Mei Ryu[中医師]

中国黒龍江省生まれ、黒龍江中医薬大学卒業後、ハルビン医科大学付属二院に内科医として臨床を経験。1994年に来日、北海道大学医学部客員研究員を経て、2001年、薬日本堂に入社。主な著書『中国の女医さんが教えるおいしくて身体にいい中華』『病気・症状を改善 これならできる漢方ごはん』。

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