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公開日:2017.02.01 更新日:2020.05.2026821view

日本人が編み出した高血圧に有効な漢方薬 ~七物降下湯(しちもつこうかとう)

知っておこう!漢方薬の意外な力 vol.21

血管が縮こまりやすい寒い冬、高血圧の方は要注意の季節です。今月は高血圧によい漢方薬を2つ紹介しましょう。
現在、日本では1000万人以上が高血圧症として治療を受けているのはご存知ですか?基本的には上の血圧が140、下の血圧が90を超えている方が高血圧とみなされます。

そもそも心身の健康を保つ血液は、心臓のポンプ作用と全身に張りめぐらされている血管によって、全身に送り届けられます。
この時に動脈にかかる圧力を血圧といい、心臓がドンと血液を送り出す時の圧力を「収縮期血圧」いわゆる「上の血圧」、心臓の弁が一旦閉じる時の血圧を「拡張期血圧」いわゆる「下の血圧」としています。

病院のお薬で血圧を下げることは可能ですが、大切なのは生活習慣の改善です。
塩分や脂肪分を極力減らす、適度な運動と適切な睡眠時間を確保する、イライラと怒るよりもリラックスを心がけるなど、さまざまな角度から取り組めます。

漢方ではどうでしょう?実は「血圧を下げる漢方薬」というものはありません。
漢方薬は血圧上昇に伴う不快な症状を改善するので、症状によって処方が違うのです。大きく2つのタイプに分けてみましょう。

Aタイプ
頭部に気血が上がって巡りにくい状態
Bタイプ
頭部に気血が不足して巡りにくい状態

□上の血圧が高い (例:158/98)
□肩こりや強い頭痛がある
□高音の耳鳴りがする
□ストレス、怒りでめまいがする
□顔が赤い、目が充血する

□下の血圧が高い (例:145/110)
□めまいやふらつきがある
□やや低めの耳鳴りがする
□疲れやすく、だるさを強く感じる
□顔色が悪く、視力低下が気になる

Aタイプは日常のストレスなどで「頭に血がのぼった」状態といってもよいでしょう。
血圧が上がるとともに後頭部がズキズキしたり、こめかみが締めつけられるように痛む傾向があるようです。
この場合によく使われるのが釣藤散(ちょうとうさん)で、石膏と菊花が頭部の熱を冷ましてくれます。やかんでお湯を沸騰させるとピーという音が鳴りますね。それと同じように高音の耳鳴りがする傾向があります。

Bタイプは過労や心労で気血を消耗して頭部にすきま風が吹いている状態といってもよいでしょう。
血圧が上がるとともにフワフワしたようなめまいや手足のしびれ、ひきつりなどが起こる傾向があるようです。
この場合によく使われるのが七物降下湯(しちもつこうかとう)で、当帰や芍薬が血を補ってくれます。

実はこの処方、日本の漢方大家である大塚敬節先生がご自身の経験をもとに編み出した処方です。実際に眼底出血して視力も低下している状態で失明も危惧されたものを、回復させ血圧も安定させたという記述があります。
同じ高血圧といえども、症状や体調が違えば治し方も違うはず。当たり前のことかもしれませんが、漢方では常に重視することです。皆さんも、ぜひ自分の身体の声に耳を傾けて体調管理をしてくださいね。

釣藤散釣藤鈎 橘皮 菊花 防風
半夏 麦門冬 茯苓 人参
生姜 甘草 石膏
慢性に経過する頭痛、めまい、肩こりなどがあるものの次の諸症:高血圧傾向にあるもの、慢性頭痛、神経痛
七物降下湯当帰 芍薬 川芎 地黄
黄耆 黄柏 釣藤鈎
顔色が悪くて疲れやすく、胃腸障害がないものの次の諸症:高血圧に伴うのぼせ、肩こり、耳鳴り、頭痛

齋藤 友香理
齋藤 友香理 - Yukari Saito[薬日本堂漢方スクール講師・薬剤師]

1969年北海道生まれ。東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務めていた。多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら社員教育にも携わり、「養生を指導できる人材」の育成に励んでいる。分かりやすい解説と気さくな人柄で、幅広い年齢層から支持されている。

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