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公開日:2017.01.01 更新日:2020.05.205739view

冬の上海の滋養強壮、「膏方はじめました」

中医の玉手箱(6)

冬になると思い出すのは上海の「膏方(ガオファン)」。10月になると上海の中医医院や漢方薬局に「膏方始めました」「膏方は当店で!」というのぼりが立ちます。今回はこの「膏方」とは何かを紹介します。

膏方とは、上海を中心に行われている「冬の滋養強壮」の方法の一つで、中医学の考えに基づいて作られた「濃縮漢方薬エキス」を指します。冬は暖かく明るい「陽」が少なく、寒く暗い「陰」の多くなる季節ですが、収穫したものを春まで蓄えておく季節でもあります。膏方は、冬に少なくなる「陽」の気を補い、身体を温めて冬を乗り切るための生活の知恵ともいえます。

膏方の予約は秋口から受け付けますが、出来上がったものを受け取るのは12月に入ってから。病院や薬局には専用の膏方窓口が設けられ、注文も受け取りもそこで行われます。どちらの場合も、医師が患者の普段から気になる症状を聞き、その症状に合わせた処方に、滋養強壮のはたらきをもつ生薬や、飲みやすくするための甘味料(氷砂糖など)、とろみをつける膠(にかわ)質の薬などを追加して、じっくり煮込んで作ります。

出来上がりはどんなふうかというと、「漢方薬の匂いがする水飴」のような、ねっとりした黒い液体が陶器のかめに入ったものを渡されます。かめごと冷蔵庫で保管し、冬至の日から3カ月間、スプーン1杯をすくってお湯に溶かして飲みます。出張などで移動の多い人は、1回分ずつの小分けパックにしてもらうこともできます。

膏方は、膠質の薬剤が入っているため、ねっとりして胃にもたれるので、胃腸の弱い人は膏方の開始前に胃腸を整える処方を出されることもあります。また、膏方は「補う」はたらきがあるので、急な発熱や下痢などの時は一時休止しなければなりません。服用している間は、生ものや冷たいものを食べてはいけない等の約束事もあります。普段より多めの生薬を使い、鹿角や亀板などの高貴薬も使うため、3か月分の値段はかなりの金額になります。上海一帯が発祥ですが、最近では近隣の省や北京でも浸透しつつあるとのことでした。

生薬の種類をそろえたり、煮込むための設備が必要だったり、また、日本人の体質も考えると、日本で膏方をやることは難しそうですが、私達には「温」「補」「黒」の食材が味方してくれます。「温」は身体を温める性質の生姜、シナモン、羊肉など、「補」は穀類、豆類、芋類や山芋、きのこ類など、「黒」は黒い色の食材、黒豆、黒ごま、ひじきや海藻類などです。これらを日々の食事に取り入れ、冬の間に春に向けての滋養強壮をしていきましょう。

原口 徳子
原口 徳子 - Noriko Haraguchi[中医師・薬日本堂漢方スクール講師]

1963年仙台市生まれ。高校生の頃に太極拳を学び、経絡や気の流れに興味を持つ。家族の転勤で2003年から10年ほど中国に住む間に、上海中医薬大学で中医学と鍼灸推拿学を7年間学ぶ。修士号(中医学)を取得して卒業、中医師の資格を取得後2014年に帰国。「お母さんと子供を元気にする漢方と養生」の普及のために活動中。

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